本文へスキップ
Insights — Technology

ツールは判断に
取って代わりません

解析の速度は20年前とは比べものにならないほど速くなり、AIは人より速く設計代替案を提案します。しかし、何を計算するのか、結果をどう解釈するのか、その判断に誰が責任を持つのかは、今も人の役割です。このカテゴリーでは、その境界を扱います。

設計変数の応答曲面とサロゲートモデルによるCFD検討時間の短縮
Technology · Featured

AIサロゲートモデルによるCFD解析の最適化:設計検討サイクルを半分に

全数計算は正確ですが遅く、サロゲートモデルは速いものの精度に欠けます。2つの方法をどう組み合わせれば、実務で信頼できる結論に到達できるかを整理しました。

FEATURE2026.07.28読了時間 8分

建築・プラントのプロジェクトでは、流体解析の対象ケースが急速に増えていきます。棟配置の代替案5通り、開口部条件4通り、風向16方位を組み合わせると320ケースです。1ケースに4時間かかるとすれば、単純計算でも53日です。設計スケジュールはそれを待ってはくれないため、現実にはほとんどの場合、いくつかのケースだけを選んで計算し、残りは推定しています。

問題は「どのケースを選ぶか」です

経験豊富なエンジニアは、たいてい的確に選びます。しかし、その選択の根拠を第三者に説明するのは難しく、審議で「なぜこの条件だけを検討したのか」と問われると、答えに窮してしまいます。さらに大きな問題は、直感が見落とす組み合わせが存在することです。個々の変数では問題がなくても、特定の組み合わせでのみ性能が急激に悪化する区間が、実際にはよく見つかります。

サロゲートモデル(Surrogate Model)の役割

サロゲートモデルとは、少数の精密解析結果を学習し、残りの条件の結果を近似予測するモデルです。ここで重要なのは、サロゲートモデルの予測値を結論として使わないという点です。サロゲートモデルはあくまで、どこを精密に見るべきかを示す地図です。

実務への適用手順

  • ステップ1 — 初期サンプリング · 設計変数空間を均等にカバーするよう20~40ケースを選定し、精密CFDを実施します。ランダムではなく、ラテン超方格法などの空間充填手法を用います。
  • ステップ2 — サロゲートモデルの学習 · 初期結果から応答曲面を構築し、交差検証によって予測誤差を定量化します。誤差が許容範囲を超えた場合はサンプルを追加します。
  • ステップ3 — 全領域スキャン · サロゲートモデルで全組み合わせを数秒でスキャンし、危険区間と最適候補区間を特定します。
  • ステップ4 — 選別精密解析 · 危険区間の境界と最適候補の10~20ケースのみを精密CFDで再計算し、確定します。
  • ステップ5 — 検証と報告 · 精密解析結果とサロゲートモデルの予測を照合し、モデルの信頼区間を報告書に明記します。

実際の効果と限界

DINETTが実施した団地配置検討の事例では、全数計算の320ケースに対し、精密解析は54ケースに減りました。検討期間はほぼ半分になり、同時に検討した条件の数はむしろ増えました。直感では選ばなかったであろう2つの危険な組み合わせが、この過程で発見されています。

ただし、限界も明らかです。物理現象が不連続に変化する区間 — たとえば流れのはく離が突然発生する条件 — では、サロゲートモデルの予測は大きく外れます。したがって、サロゲートモデルの信頼度が低い領域は必ず精密解析で確認しなければならず、この判断を自動化に任せないことが重要です。

基本原則
AIは検討範囲を広げるために使い、結論を出すためには使いません。最終判定は精密解析の結果とエンジニアの判断によって行われるべきであり、報告書には、どのケースが精密解析でどれが予測なのかを明確に区別して表記します。

どこから始めればよいか

すべてのプロジェクトにこの方式が必要なわけではありません。ケース数が50未満であれば、全数計算のほうが単純で安全です。このアプローチが意味を持つのは、変数が3つ以上で組み合わせが100ケースを超え、設計スケジュールが逼迫している場合です。

また、組織内にこのワークフローを定着させるには、解析自動化スクリプトと結果管理の仕組みを併せて整える必要があります。DINETTは、お客様が自社の力でこれを運用できるよう、手順とテンプレートの移管まで支援しています。


本記事は、DINETT 工学シミュレーション部門の実務経験に基づいて作成しました。具体的な適用方法やプロジェクトのご相談は、サービスのお問い合わせからご連絡ください。

Articles

技術関連のインサイト

耐震性能評価における1次線形検討と2次非線形解析の分岐、および性能点
Technology

耐震性能評価の第1段階と第2段階、いつ何を選ぶべきか

予備評価で十分な場合と詳細評価が必要な場合の見極め方。評価段階の選択が補強予算の規模を数倍に変える理由を、事例で説明します。

BLOG2026.05.096分
解析と実測の残差を、境界条件・物性・モデリング・計測の順に点検する手順
Technology

解析結果が実測と異なるとき、何から疑うべきか

境界条件、材料物性、メッシュ、測定誤差。相関検証(Correlation)で誤差の原因を順番に排除していく手順。

FEATURE2026.04.237分
デジタルツインの計測・補正ループと、センサー設置前に定義すべき4つのこと
Technology

デジタルツイン、センサーを取り付ける前に決めるべきこと

何を監視するかを決めずに設置した計測システムには、データが溜まるだけです。目的から逆算するモニタリング設計。

FEATURE2026.03.196分
要素サイズ別のメッシュと結果値の収束曲線によるメッシュ収束性の検討
Technology

メッシュ(Mesh)収束性の検討を省くと起きること

報告書にきれいな応力分布図が載っていても、収束性の検討がなければその値に根拠はありません。最低限確認すべき手順。

BLOG2026.01.085分
解析組織における担当・検討・承認の役割と、入力検証から発行までの手順
Technology

社内解析組織をつくる:ツールより手順が先

ソリューションを導入しても、標準手順と検証体制がなければ、結果の信頼性は担当者によって変わります。能力内製化の順序。

BLOG2025.11.076分
BIM形状モデルを節点・部材の解析モデルに変換する際の単純化と誤りの整理
Technology

BIMモデルをそのまま解析モデルとして使えない理由

形状情報と解析モデルが必要とする情報は異なります。変換の過程で何を単純化し、何を残すべきか。

BLOG2025.09.305分
CFD解析と風洞測定結果の相関検証および解析設定条件表
WHITE PAPER2026.05.22

[ホワイトペーパー]建築物の風環境評価 実務ガイド

審議対応チェックリストを含む実務者向け資料。PDFを提供しています。

GPRアンテナ周波数による探査深度と分解能のトレードオフ
BLOG2025.06.12

GPR探査で見つかったもの、見つからなかったもの

物理探査の分解能の限界を理解し、ボーリング調査と組み合わせる方法。

AIが生成した草案が検証段階を経て、技術責任者の署名で確定するプロセス
BLOG2025.04.17

AIが書いた報告書に誰が署名するのか

自動化が進むほど明確にすべきなのは、責任の所在です。

解析ワークフローの改善を
ご検討中ですか?

現在実施している解析方法とボトルネックをお知らせいただければ、改善の方向性を整理してお伝えします。社内での能力内製化の支援も可能です。